お中元のうわさ

取り立てて苦手というわけではないが、牛乳を自分から飲もうと思ったことはない。学校の給食で出されたから、家で母親に飲みなさいと言われたから、冷蔵庫を開けたら他に飲むものがなかったから、そこにあった牛乳を飲んだに過ぎない。特別に“おいしい牛乳”を飲んだ記憶もない代わりに、特別に“まずい牛乳”を飲んだ記憶もない。要するに、私にとっての牛乳は栄養のためのものであり、味覚を楽しむものではなかったのだ。ところが、ある日、一緒に買い物に行った友人に薦められた「蒜山」の“ジャージー牛乳”を飲んで、私の牛乳に対するイメージが変わった。「蒜山」の“ジャージー牛乳”は濃厚な、まさに“乳の味”がして美味しい。初めは、毎朝カフェオーレにして飲んでいたのだが、珈琲と牛乳の割合が日に日に逆転していき、いつの間にか、ほのかに珈琲の味のするホットミルクになっていた。“ジャージー”とは乳牛の種類で、よく知られている白地に黒の模様のある“ホルスタイン”に比べて、小型で茶褐色の体をしているそうだ。その“ジャージー乳牛”から搾った牛乳がこれだけ美味しいということは、蒜山高原の他の乳製品も美味しいはずだ。そう確信した私は、ヨーグルトからチーズ、バター、アイスクリームに至るまで、蒜山高原の“ジャージー乳牛”の製品をお取り寄せした。私の予想通り、どれもコクがあって美味しかった。中でも、一番気に入ったのは、“ジャージー生クリームサンド”である。パンケーキの生地と生地の間に濃厚なクリームを挟んだ、この洋風どら焼きは、ひとつ食べると、必ず後を引く。パンケーキの生地の軽さとクリームのコクが、珈琲によく合うのだ。珈琲好きの母に送ってあげようかと実家に電話したら、偶然、父が岡山県の蒜山高原に旅行してご“ジャージー乳牛”の乳製品をどっさりお土産に買ってきたという。母と私は「“ジャージー生クリームサンド”が美味しい」という話で盛り上がった。血は争えない。そんな話を母と電話でしていたら、ようやく一人で冷蔵庫の扉を開けられるようになった娘が、中から“ジャージー生クリームサンド”を出して食べていた。食いしん坊の血は、受け継がれていく。生クリームサンドはお中元にもってこいの一品だ。

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